ITエンジニアとしてのキャリアを描くうえで、SIer(エスアイヤー)という選択肢を選ぼうかと考える人も多いと思います。エンジニアのキャリアパスにおいて、SIerを選ぶことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

ここでは、SIerへの転職を考えている方やSlerで働いていて次のステップを考えている方に向けて、SIerを選ぶメリットを説明するとともに、SIerになった後のキャリアパスの築き方について解説します。

SIerとは

まず、SIerの意味や仕事内容、需要について解説しておきます。

SIerの意味

「SIer」とはシステムインテグレーション(System Integration)の頭文字の「SI」に、Playerのように「~をする人」を意味する「er」をつけた言葉です。つまり、「システムを統合する人」の意味となります。

クライアント企業に代わって、ITシステムを一貫して構築・運用するサービスを提供する企業や個人を指します。クライアントの要望に応じてソフトウェアやシステムの設計・運用・保守、コンサルティングなどを行います。

SIerの仕事内容

SIerの仕事内容は企業の規模や種類によって異なりますが、主な業務としては「企画立案」「要件定義」「システムの設計と開発」「システムのテスト」「システムの運用と保守」などがあります。

企画立案では顧客を分析して課題を抽出し、どのようなシステムを構築すれば課題を解決できるかを検討し、企画を作成します。要件定義では、企画を実現するために必要な機能やシステムの仕様、顧客の要望などを仕様書にまとめます。

要件定義の確定後は、基本設計や細かな仕様を設計に落とし込みます。システムの設計・開発を経て、システムを動かしながら不具合や動作のチェックを行ないます。運用や保守作業も重要な業務で、運用中のトラブルの監視や定期的なメンテナンスを行なうほか、顧客から新たな要望が出た場合には迅速に対応を行います。

SIerの需要

SIerの需要は高いのでしょうか。まず、矢野経済研究所の調査によれば、2023年度のIT市場の規模は前年度比6.3%増の15兆500億円となっており、IT市場は拡大しています。

市場拡大の理由は、基幹システムやサーバーのリプレイスのほか、オンプレミスからクラウドへの移行、デジタル化の推進といったさまざまな要因があります。とくに、DX化の推進が追い風となっており、SIerの需要もそれとともに高まっています。

実際にDX推進におけるSIerの必要性のアンケートでは、企業の23.4%が「SIerがいないと(業務が)回らない」、39.2%が「SIerがいないと今後のIT関連の計画が立てられない」と回答。6割超(62.6%)の企業がSIerの存在は包括的な意味で「絶対必要」と考えています。

SIerの将来性

矢野経済研究所の調査によるとIT市場の規模は、2025年度は16兆6,800億円(同5.0%増)、2026年度は17兆円(同2.5%増)と、右肩上がりの予測となっています。

経済産業省の資料では、「ITサービス需要の変化」として「クラウド、ビッグデータ、IoT/AIに係るIT投資(3rdPF)の市場やプラットフォーム化が進展する中、旧来のSIビジネスが減少することも予想され、ITベンダーの業務内容やユーザ企業とIT関連企業の情報システム構築における役割や関係にも変化が生じると想定される」とされています。

ただし、「DX推進環境が整うデジタル推進企業でも、3割強がSIerを必要としている」など、内製化のトレンドなどで旧来のSIビジネスが減少しても、「信頼できるアドバイザー」としてSIerは期待されていることがわかります。今後もDX化は進むので将来も仕事が多いはず。また、デジタル未推進企業では7割近く(68.9%)は「SIerが不可欠」と考えていますし、将来もSlerの需要は続くと考えられます。

エンジニアのキャリアにおけるSIerのメリットとは

では、エンジニアのキャリアにおいてSIerを選ぶメリットとはどのようなものなのでしょうか。

大規模案件を経験できる

SIerでは大規模案件を経験できるということが大きなメリットといえます。

SIerの業務においては、大規模なプロジェクトになることが多いです。SIerのクライアントは、自社内にエンジニアを抱えることで大きなコストがかかってしまうので、SIerに依頼する傾向にあり、それだけ大きなシステムを扱うことになります。

また、2025年問題などでレガシーシステムを継続利用するリスクが叫ばれており、今後大規模案件は増えていくことでしょう。

幅広い案件・技術に携われる

SIerとして働くことで、幅広い案件や技術に携われます。

SIerはシステムに関わる幅広い業務に関わりますし、要件定義やシステム設計、開発、テスト、運用・保守など、さまざまな業務を経験できます。また、SIerでは基本プロジェクト単位で配属されます。プロジェクトが終了すれば別のプロジェクトに配属されるので、さまざまな技術に触れられるのです。

SIerが顧客対象とする業界は、製造業や卸売・小売業、医療、建設業、行政、インフラ、介護などさまざまです。官公庁のシステムや銀行の口座情報管理システム、小売りのPOSシステム、医療の電子カルテなど、多種多様な仕事を経験できるでしょう。

上流工程を経験できる

SIerでは、上流工程を経験できることがメリットです。

SIerはプロジェクトにおいてシステムの全体に関わることが多く、顧客へのヒアリング、企画作成、仕様策定、システム設計など、上流部分の業務も行います。プロジェクトマネジメントやコスト管理、スケジューリングなど、システムに関する業務以外を経験できるのも大きなメリットでしょう。とくに大手SIerが上流工程を担当することが多いです。

こういった折衝やプロジェクト管理などの上流工程の経験は、異業界などでも活かせますし、今後のキャリアにとっても大きなメリットといえるでしょう。

条件が良い可能性がある

SIerは条件が良い環境で働ける可能性があります。

日本ではIT人材が不足していますし、SIerのエンジニアはシステム開発だけでなく、幅広い業務を担当する高い仕事であり、求められるスキルや知識なども高い傾向にあります。だからこそ、案件や企業によっては給料や福利厚生の待遇が良い可能性があります。

ユーザー系や独立系、メーカー系のSIerなど、企業によっても条件などは変わってきますので、企業の条件を確認するのがよいでしょう。

コミュニケーションを学べる

SIerはコミュニケーションを学べることも大きなメリットです。

SIerのエンジニアは、業務のなかでクライアントとのコミュニケーションが求められます。クライアントがシステムに精通しておらず、要望が曖昧なことも多々あるため、クライアントの要望や課題を的確に把握し、汲み取る力が必要になります。

また、クライアントのみならずプロジェクトメンバーと連携して業務を行うので、円滑な情報共有や意見交換をする能力も養えます。

SIerのキャリアパスは?

では、SIerのキャリアパスはどのようなものでしょうか。

SIerでのキャリア

Slerでエンジニアとしての研鑽を積み、そのままSIerとしてキャリアを積む場合のキャリアパスを4つの職種で解説します。

プロジェクトマネージャー

SIerとしてエンジニアの経験を積んでいくと、プロジェクトマネージャーになることができます。

プロジェクトマネージャーは、より上流の立場からプロジェクトの計画、実行、監視、マネジメントを行います。工数の妥当性の評価や判断、チームリーダーの選定、納期までに完遂するためのスケジュールと品質の管理、リスクマネジメントなど、プロジェクトをマネジメントします。

プロジェクトマネージャーになるには、IT分野における幅広いエンジニアとしての知識のほか、コミュニケーションスキル、プロジェクトマネジメント能力、リスクマネジメント能力などが必要です。

セールスエンジニア

セールスエンジニアは、クライアントへ製品やサービスの提案・販売を行ったり、技術的な視点から営業のサポートをしたりする仕事です。

システムやソフトウェアなどの販売や営業の場面では、プログラミングやシステムに関する専門的な知識が必要になります。営業のなかにはそういった知識や経験がない人もいるので、そういったサポートも行います。SIerとして経験を積んだエンジニアであれば深い経験と知識があるので具体的に説明ができますし、どのような質問にも回答することができます。

ただし、その分エンジニアよりも顧客との折衝能力やプレゼン能力が必要になりますし、顧客のニーズを引き出す能力が必要になります。

ITコンサルタント

SIerで経験を積むことでITコンサルタントを目指すことができます。

ITコンサルタントとは、最上流からクライアントの課題をITで解決するための戦略を策定したり、必要なシステムや方法を提案したりする仕事です。経営やマーケティングなども踏まえて、より重要な意思決定に関わります。

SIerとして培ったシステムに関する知識だけでなく、業界知識や経営、マーケティングなど幅広い知識が必要になります。論理的な思考やコミュニケーション力、プレゼンテーション力など、顧客との折衝を成功させるための能力も求められます。

ITアーキテクト

SIerのエンジニアのキャリアパスとして、ITアーキテクトという選択肢もあります。

ITアーキテクトの「アーキテクト」には「建築士」や「設計者」といった意味があり、システムの設計を行う仕事といえます。SIerなどはクライアントの直近の課題を解決するシステムを作りますが、ITアーキテクトはもっと根本の経営戦略からの要求に応えるシステムの設計を行います。

要件定義などのシステムのすべてを立案し、システム全般の設計に責任を持つため、高度な設計に関する知識とともに、運用や管理のための最適化に関する知識、セキュリティの知識
などが求められます。

ITアーキテクトはエンジニアとしての経験はもちろんですが、大きなプロジェクトを運用するためのマネジメント力が不可欠ですし、AIやIoT、5GといったIT業界の最新動向を常にキャッチアップする必要もあります。

SIer外でのキャリア

SIerのエンジニアとしてキャリアを積んだのちには、SIer以外で働く方法もあります。ここでは事業会社への転職、フリーランス、起業の選択肢について解説します。

事業会社への転職

SIerとして経験を積むことで、事業会社へ転職することが可能です。

事業会社での仕事とは、自社でシステムを開発している企業で開発や運用、保守を行ったり、ITとは別の業種の企業内で社内システムの開発や運用を社内で行うポジションです。DXを加速させるうえでITの内製化を進める事業会社が増えていることからも、社内におけるIT人材への需要は高まっています。

システムに関するあらゆる対応を自身で行わなくてはならないので、一定レベルの知識とスキルが必要になりますし、セキュリティや保守などの知識なども必要になります。一方、事業会社においては自身の手でフレキシブルにシステムを運用できますし、組織への貢献を実感しやすいのが魅力のひとつです。

フリーランス

SIerとして経験を積み、スキルと知識を得たのちには、フリーランスとして独立することができます。仕事内容の性質はSIerと大きな違いはありませんが、自分で仕事を受け、自身の責任で業務を行っていきます。

フリーランスの場合には、案件紹介サイトやエージェントサービスなどを利用することで仕事を得られる可能性があります。フリーランスエンジニアは高収入も期待できますが、実力がなければ仕事を続けられないリスクがあります。

スキルに自信があり、自分の裁量で仕事を捌くことに魅力を感じる人に向く選択肢と言えるでしょう。フリーランスのSIerはスキルや実績が重要になるので、日ごろから研鑽を積むことも求められます。

フリーランスからは、法人を起業するなど事業を大きくしていくというキャリアパスもあります。

起業

SIerとして開発や上流工程、顧客との折衝などの経験を積み、実力をつけたのちには起業というキャリアパスもあります。

法人を起業することで、より大きな収入を得られる可能性があります。しかし、法人を起業する場合には、登記のための費用などは必要になりますし、事務所や設備、人材などへの投資も必要になります。また、仕事を得るための営業が必要です。

起業をすることで自分の裁量で仕事ができますし、フリーランスよりも社会に対しての大きな影響を与えることができ、やりがいも大きいでしょう。ただし、採用や会計、経営、マーケティングなど、エンジニアとしての仕事以外の部分の知識や業務も求められるので、より幅広い知識が必要になってくるでしょう。

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エンジニアとしてキャリアを築く上で、SIerはさまざまなキャリアパスが築ける職種です。SIerとして経験を積むことで、より上流の仕事やよりインパクトの大きな仕事ができるようになるかもしれません。

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