現代社会において半導体の需要は年々高まっており、それに伴い半導体エンジニアの重要性も増しています。一方で、「半導体エンジニアの仕事はきつい」とも言われることがあります。その背景にはどのような要因があるのでしょうか。
今回は、半導体エンジニアの仕事内容や労働環境、仕事がきついと言われる理由をデータに基づいて解説するとともに、本当にきついのかを検証します。さらに、半導体エンジニアに向いている人の特徴についても紹介するので、これから目指す人や実態を知りたい人はぜひ参考にしてみてください。
目次
半導体エンジニアの仕事とは
まずは、半導体エンジニアの仕事内容や労働環境について紹介します。
半導体エンジニアの仕事内容
半導体エンジニアは、半導体製造の各工程を支える技術者であり、プロセスエンジニア、デバイスエンジニア、設計エンジニアの3つの職種に分類されます。それぞれの主な役割と仕事内容は以下のとおりです。
職種 | 役割 | 主な業務内容 |
---|---|---|
プロセスエンジニア | 半導体製造の工程管理・品質管理を担当 |
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デバイスエンジニア | 半導体素子の設計・特性評価を担当 |
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設計エンジニア | 集積回路(IC)の設計・最適化を担当 |
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各エンジニアはそれぞれの分野で技術革新を進め、連携しながら半導体製品の開発・量産化を支えています。
半導体エンジニアの労働環境
半導体エンジニアの労働環境はきついのでしょうか。半導体エンジニアの労働環境は比較的安定しているといえます。厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「jobtag」の統計データによると、半導体エンジニアの労働時間の全国平均は160時間であり、法定労働時間の上限内に収まっています。そのため、残業が多いわけではないと考えられます。
また、半導体エンジニアは雇用が安定している職種です。正規職員の割合は92%と非常に高く、安定した雇用が確保されています。最終学歴としては、大卒や修士課程卒の人が多く、機械・電気・電子工学などの専門知識を活かして就職しているケースが多くなっています。
さらにjobtagでも、中途採用者の多くは経験者であり、転職後も半導体エンジニアとしてのキャリアを続けることが多いとされています。半導体エンジニアの労働環境がきついと他の業界に転職するはずなので、労働環境がきついとはいえないかもしれません。
半導体エンジニアがきついと言われる理由
では、なぜ半導体エンジニアはきついと言われるのでしょうか。実際にきつい仕事なのか、データをもとにデメリットに感じてしまう部分を見ていきましょう。
業務量が多い
半導体エンジニアがきついと言われるのは、業務量が多いことが原因の可能性があります。
半導体エンジニアの業務量は増加していますが、その背景には市場の拡大と人手不足があります。「半導体関連エンジニアの求人と転職の動向についての調査」によると、半導体エンジニアの求人数は2013年から2023年の間に12.8倍に増加しています。需要に対して企業の採用が追いつかず、多くの現場で人手不足が深刻化していることがわかります。その結果、1人あたりの業務負担が増加し、「業務量が多い」と感じるエンジニアが増えている可能性があります。
ただし、上記で労働時間を記載したとおり、半導体エンジニアの月間平均労働時間は約160時間であり、必ずしも長時間労働が常態化しているわけではありません。実際の業務負担は、職種や分野、企業、さらには時期によって異なります。
衛生面のルールが厳しい
半導体エンジニアの仕事が過酷だと言われる理由の1つに、衛生面のルールが厳しいことも挙げられます。半導体は極めて繊細な素材であり、製造過程では高い精度が求められます。そのため、エンジニアは衛生管理を徹底し、身だしなみにも細かい規定を守らなければなりません。
具体的には、外部からのホコリや異物の侵入を防ぐため、クリーンルーム内での作業が義務付けられています。クリーンルームへの入退室時にはエアーシャワーを浴びることが求められ、これには時間と手間がかかります。また、異物の発生を防ぐため、特殊な高制電ユニフォームを着用することも必須です。髭や化粧といった身だしなみについても厳格なルールがあり、これに従わなければなりません。
こうした衛生面のルールはエンジニアにとって時にはストレスの原因となり、きついと感じさせる可能性があるでしょう。
立ち仕事が多い
立ち仕事が多いことも、きついと言われる理由である可能性があります。半導体エンジニアの職種によっては、立ち仕事が多く、体力的に負担を感じることがあります。
特に製造に関わるエンジニアは、クリーンルームでの作業が中心となり、長時間立ちっぱなしで作業することが求められます。若手エンジニアであれば、立ち仕事による体力的な負担をあまり感じることはありませんが、年齢を重ねると体力の衰えにより、長時間の立ち作業が辛く感じることもあるでしょう。一方、プロセスエンジニアは基本的にデスクワークが中心となるため、立ち仕事の負担は少なくなります。
このように、半導体エンジニアは職種によって立ち仕事の多さに差があるので、立ち仕事を避けたいという人は、キャリアを考える際に職種の選択に気をつけましょう。
工場勤務が多い
工場勤務が多いと、きついと感じる可能性があります。半導体エンジニアは、半導体製造に関わるため工場勤務が多くなります。工場は、半導体製造に必要な広い土地を確保するため、郊外に設置されることが多いです。そのため、通勤のための移動時間が長くなりオフィス勤務と比べて負担が大きくなるでしょう。市街地と比べると食事や買い物などの面でも不便です。
また、工場はオフィスとは異なり、閉塞的に感じることがあります。作業環境によっては外に出る機会が少なく、工場内が日光の少ない暗い場所であることもあるでしょう。こうした環境が合わない場合、息苦しさを感じてきついと感じることがあるかもしれません。
勤務時間が不規則
勤務時間が不規則になることがあるのも、半導体エンジニアがきついとされる理由でしょう。半導体エンジニアは、基本的には交替制勤務が採用され、日勤だけでなく夜勤や変則的な休日もあります。
半導体製造では生産性向上のために24時間体制で稼働するために、エンジニアは夜勤を含む交替制勤務を経験することが多くなります。このような勤務体系では、勤務時間が不規則になりやすく、家族や友人との予定調整が難しくなることもあるでしょう。また、生活リズムが乱れがちになり、体調管理にも気をつける必要があります。
とはいえ、すべての企業が厳しい勤務時間を強いるわけではありません。残業が少なく、休日もしっかりと取れる企業も多いです。
半導体エンジニアの年収事情
半導体エンジニアとして働くにあたって、気になることといえば年収ではないでしょうか。ここでは、半導体エンジニアの年収の目安や他のエンジニア職との比較を紹介します。
年収
「jobtag」の統計データによると、半導体エンジニアの全国平均年収は688.2万円で、これは国税庁が発表した「令和5年分 民間給与実態統計調査」の平均年収460万円を大きく上回っています。
また、所定内給与額別の人数割合を見ると、月収40~44.9万円を受け取っている人が最も多く(13.17%)、60万円~100万円以上を受け取っている人も相当数いることがわかります。これらのデータからも、半導体エンジニアは年収水準が高いことが裏付けられるでしょう。
さらに、年齢別の年収グラフを見ると、20~24歳の平均年収は356.5万円ですが、年齢が上がるにつれて年収は増加し、最も年収が高くなるのは50~54歳で841.26万円となっています。このことから、半導体エンジニアとして長く働くほど、より高い年収が期待できることがわかります。
他のエンジニア職との比較
半導体エンジニアは、他のエンジニア職と比較して年収が高いことがわかります。具体的な年収データは以下のとおりです。
エンジニア職 | 年収 (万円) |
---|---|
半導体エンジニア | 688.2 |
機械設計エンジニア | 612.4 |
組み込みエンジニア | 557.6 |
社内システムエンジニア | 684.9 |
Web系システムエンジニア | 557.6 |
同じ製造業のエンジニアである機械設計エンジニアや組み込みエンジニアと比べても、半導体エンジニアの平均年収は高い結果となっています。また、IT系のエンジニアと比べても高いことがわかります。
ただし、これらの年収データは、全国平均をもとにしていますが、地域や企業、保有する資格・スキルなどによって実際の年収は異なる場合があるので注意してください。
『半導体エンジニアの年収とは?将来性や高収入を目指す方法、必要な能力を解説』
半導体エンジニアが向いている人とは
半導体エンジニアの仕事はきつい部分がありますが、それを乗り越えるモチベーションや目的、適性があれば向いているといえます。ここでは、具体的に半導体エンジニアに向いている人の特徴を見ていきましょう。
モノづくりが好きな人
半導体エンジニアに向いている人の特徴としては、モノづくりが好きな人が挙げられます。半導体の製造工程では、ナノ単位の精度が求められ、わずかな誤差が製品の性能や歩留まりに大きな影響を与えます。そのため、精密な加工や高度な制御が不可欠であり、そういった細部へのこだわりが必要です。だからこそ、モノづくりへの情熱と探求心が重要になってきます。
例えば、フォトリソグラフィ工程では光を用いて半導体基板上に微細な回路パターンを形成しますが、露光条件やレジストの特性がわずかに変わるだけでも、回路の形成精度に影響を及ぼします。このような繊細な作業をこなすには、細部へのこだわりと、最適なプロセスを追求する姿勢が重要なのです。
また、半導体製造の現場では、思い通りにいかないトラブルが発生することもあります。設備の不具合、材料の特性変化、環境要因など、多くのことが関与するため、1つの課題を解決すると新たな問題が発生することも珍しくありません。こうした状況においてもモノづくりに情熱を持ち諦めない人は、やりがいを感じながら仕事に取り組めるでしょう。
最先端技術に携わりたい人
半導体エンジニアは、最先端技術に関わりたい人にとってもぴったりな職業です。半導体技術は急速に進化しており、新しい製造プロセスや設計手法、材料が次々と開発されています。半導体エンジニアとして働くことで、実務を通じて最新の知識や技術に携わることができるでしょう。
例としては、EUVリソグラフィ(極端紫外線リソグラフィ)やナノシートトランジスタなどのように、より高性能かつ省エネルギーな半導体が生み出されています。こうした最前線の技術や知識が得られることは、最先端技術に関心の高い人にとって大きなメリットといえるでしょう。
ただし、半導体分野は技術の進化が著しく、継続的な学習が欠かせません。強い好奇心と探求心を持ち、新しい知識を積極的に吸収できる人にとって、半導体エンジニアの仕事は大きなやりがいにつながるでしょう。
チームでの仕事をしたい人
半導体エンジニアは、チームでの協力を重視する人にも向いている職業です。設計・開発・製造といった各工程にはそれぞれ異なる専門性が求められるため、円滑な連携が欠かせません。
設計担当者は開発チームと協力しながら仕様を決定し、製造チームと調整を重ねることで、高品質な製品を生み出します。このように、各分野の専門家が密に連携することで、はじめて優れた半導体が完成するのです。そのため、協調性があり、円滑なコミュニケーションが取れる人は、チームの中で活躍しやすいでしょう。
半導体エンジニアできつくない環境に就職する方法
半導体エンジニアとして働きたいのであれば、きつくない環境に就職すると無理なく働くことができるでしょう。最後に半導体エンジニアがきつくない環境に就職する方法をご紹介します。
工場勤務ではない職種を目指す
工場勤務ではない職種であれば、比較的きつくない可能性があります。工場勤務は、体力的な負担が大きく、交替制の影響で生活リズムが乱れてしまう可能性があります。そのため、安定した労働環境で働きたい場合は、オフィス勤務を基本とする職種を選ぶのがおすすめです。
設備系エンジニアは工場内での勤務が中心となり、機械のメンテナンスや設備管理を担当するため、肉体労働が避けられません。加えて、多くの工場では交替制が採用されており、夜勤や不規則なシフトが発生しやすい環境です。そのため、体力的な負担が大きくなりやすい職種といえます。
一方で、プロセスエンジニアのように、製造工程の管理や品質改善を主な業務とする職種では、デスクワークが中心になる傾向があります。体力的な負担が少ないため、長く働きやすいですが、企業や業界によっては現場での調整業務やトラブル対応が求められる場合もあります。そのため、事前に具体的な仕事内容を確認することが重要です。
企業研究をしっかりと行う
企業研究をしっかりと行うこともきつい環境を避ける方法のひとつです。就職活動を成功させるためには、企業研究が欠かせません。単に事業内容を知るだけでなく、労働環境や社風を把握することで、自分に合った職場を選ぶことができます。
例えば、仕事内容が魅力的であっても、長時間労働が常態化していたり、社風が合わなかったりすると、長く働き続けることが難しくなります。実際に「入社後に想像と違った」と感じるケースの多くは、事前の企業研究が不足していたことが原因です。そのため、企業研究では、公式サイトや採用ページの確認に加え、企業説明会やOB・OG訪問を積極的に活用することが重要になります。
また、社員の口コミサイトや転職エージェントの情報も参考にしましょう。ただし、意見には個人の主観が含まれるため、偏った見方にならないよう複数の情報源を比較しながら総合的に判断することが大切です。
エージェントに相談する
エージェントに相談するのも、きつくない環境を選ぶためには有効です。転職エージェントを活用することでミスマッチの防止につながるため、きつい環境を避けるためにはおすすめです。エージェントは、求職者の希望やスキルに合った求人を紹介してくれますし、社風や仕事内容などの情報を持っているので自分の適性に合った環境の求人を教えてもらうことができるのです。
さらに、エージェントのサポートを受けることで、転職後の年収が上がる可能性も高まります。「転職エージェントの利用有無と年収に関するアンケート調査」によると、転職エージェントを利用した人の42.9%が年収アップを実感しています。一方、エージェントを利用せずに転職した人で年収が上がった割合は36%にとどまるため、エージェントの活用によって年収が上がる可能性があります。
半導体エンジニアの就職・転職ならベスキャリ機電で
半導体エンジニアの仕事内容やきついといわれる理由、年収事情などについて解説しました。半導体エンジニアは、高い専門性が求められる仕事ですが、その分やりがいも大きい職種です。
きついと言われることもありますが、すべての半導体エンジニアが過酷な環境で働いているわけではなく、職種や企業によっては働きやすい環境も整っています。もし半導体エンジニアとして就職・転職を考えているなら、エージェントに相談してみましょう。
ベスキャリ機電は、機械設計や電気設計に特化しており、半導体エンジニア向けの求人も豊富です。15年以上の運営歴があり、全国のあらゆる企業とネットワークがあり、非公開求人などを含む10,000件以上の求人を常時掲載。自身の適性に合った求人を見つけることができます。
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